国力の発展をめざす社会資本整備

山本 基

1.国土計画は何のためか

2.社会資本整備の動向

3.あるべき国の姿と社会資本整備


 

1.国土計画は何のためか

平成20年に閣議決定された「国土形成計画(全国計画)」では、国土が広域ブロックに分けられ、東アジアを意識しながら、広域ブロックが自立的に発展する国土構造を目ざすことが示された。これは、日本の国づくりの考え方が大きく変わったことを意味している。

戦後の国づくりの計画は、昭和37年に閣議決定された「全国総合開発計画」に始まり、昭和44年の「新全総」、昭和52年の「三全総」、昭和62年の「四全総」を経て、平成10年の「21世紀の国土のグランドデザイン」に引き継がれた。これらの計画に一貫していたのは「国土の均衡ある発展」という考え方であった。現実には、全総計画が東京や太平洋ベルト地帯への人口や諸機能の集中と地方部の過疎を助長するなどしてきた面もあり、「国土の均衡ある発展」を実現してきたとは言えない。このため、「21世紀の国土のグランドデザイン」では、国土の均衡ある発展をめざして、新しい国土軸の形成により、一極一軸型の国土構造から多軸型の国土構造に転換することが21世紀の国土政策の基本方向であると述べていた。

ところが、21世紀になった途端に、「国土形成計画」では国づくりの考え方を変え、多軸型の国土づくりは止めて、広域ブロックごとに自立的に発展する国土構造をめざすことになった。広域ブロックごとの国土づくりは、これまで日本全体が東京に一極集中してきたように、ブロック中心都市への一極集中をもたらし、圏域内の地域格差を拡大することになると懸念される。

計画は時代の変化に対応して見直されることが重要であると考えられるが、なぜ、国づくりの考え方が大きく変化したのか。主に以下の4点が考えられる。

1つは、バブル崩壊後のグランドデザイン策定当時には、新聞に「もう全総はいらない」という社説が掲げられるなど、全総計画の持つ開発政策のマイナス面への批判が世論で高まっていたため、従来の流れのまま国土計画を立てていたのでは国土計画局の存在意義が問われるという事情があったためであると考えられる。

2つめは、島国で海岸線の多い日本で多軸型の国土構造を実現するためには、海峡を横断する交通軸を形成する事業が必要となるが、海峡横断プロジェクトをはじめとする大規模公共事業は、政官財の癒着、無駄遣い、財政逼迫、自然環境保護等を背景とした公共事業批判の中で、実施しにくくなってきたためであると考えられる。

3つめは、高まる公共事業批判や、省庁再編により国土庁が廃止され国土交通省に合体されたことに伴い、国土づくりと社会資本整備を一体的に行うことが求められるようになり、これまでの国土庁のように、計画を立てて目標を実現できなくても責任を問われないような状況ではなくなり、具体的な事業名や事業量は示さない、計画を全国計画と広域地方計画に分けるなどの工夫をして、責任を問われなくてもすむような計画づくりをするようになってきたためであると考えられる。

4つめは、地方整備局の廃止や地方分権推進が叫ばれる中で、国土交通省としては、国土形成計画を全国計画と広域地方計画の二本立てにすることにより、広域ブロックごとの施策の企画・運営部局として、地方整備局の存在意義を高めたいという考え方があったためであると考えられる。

以上の点から見ると、日本の国をどうするかという視点ではなく、主に役所をどう維持するかという組織の事情により、国づくりの基本的な考え方が変わってきたのではないかとさえ考えられる。

 

2.社会資本整備の動向

国土形成計画と車の両輪であると位置づけられているのは、社会資本整備重点計画である。これは国土づくりの方向を示す国土形成計画と調和して、5年間の社会資本整備の方向性や事業内容等を示すもので、従来は道路、治水、空港、港湾等の9つの事業分野別に策定されていた計画を一本化して、重点的、効率的に推進することを目ざしている。

前述のとおり、国土形成計画では広域ブロックが自立的に発展する国づくりの方向が示されたため、社会資本整備重点計画でも広域ブロックの自立的発展を目ざした社会資本整備の方向性が示されるはずである。しかし、平成21年8月に公表された「社会資本の重点整備方針」によると、自立の度合が高いと考えられる首都圏に社会資本整備が重点的に行われるようである。道路整備に関するアウトカム指標の一例として、環状道路の整備率を示すと、以下のとおりである。

・関東ブロック:首都圏三環状道路の整備率 43%(H19)→78%(H24)

・近畿ブロック:近畿圏の環状道路の整備率 61%(H19)→64%(H24)

・四国ブロック:四国8の字ネットワークの形成率 60%(H19)→65%(H24)

このように環状道路の整備率の目標を見る限りでは首都圏への重点的な傾斜配分となっている。産業機能等が集中した首都圏に社会資本整備の集中投資を行って、投資効率の良い首都圏に日本を牽引してもらうという考え方が根底にあると考えられる。

グランドデザインが閣議決定された平成10年と平成19年の広域ブロック別の国税収入を比較すると(国税庁統計年報書による)、国税収入が増えているのは首都圏(26.1兆円→30.2兆円)だけである。これ以外のブロックでは、近畿圏(9.4兆円→8.8兆円)、中部圏(6.6兆円→6.4兆円)などすべてのブロックで国税収入は減少している。また、平成19年には日本全体の国税収入の55%を首都圏が占めている。首都圏の国税収入は最も少ない北陸圏(0.8兆円)の約38倍である。このため、他国との競争や税収の増加などの面で投資効率を考えた場合には、首都圏に集中投資を行うという考え方は一つの考え方であり、短期的には有効であると考えられる。しかし、長期的に日本の国づくりを考えた場合にはむしろマイナスであると考える。

国土形成計画と社会資本重点整備計画は車の両輪といいながら、実際には別の方向に向いている。国土形成計画では広域ブロックが自立的に発展する国土構造にすると言いながら、社会資本整備では日本の中で最も自立度合が高い首都圏に日本を牽引してもらうための重点投資をしている。この流れのままいくと、ますます首都圏への集中が進んで、首都圏が稼いで地方に再配分する傾向が強まる。豊かな首都圏が稼いだものを国が国税収入として吸い上げて、貧しい地方部に再配分するという考え方では、日本全体の広域ブロックの自立的な発展にはつながらない。首都圏に負い目を感じながら、地方部が自立性を高めていくことは難しいと考えるからである。また、国税収入の再配分の主体は国であるので、税の体系が変わらない限り、ますます中央政府の力が強くなることになる。この面からも、地方部の自立性は弱められることになる。

国土形成計画と社会資本重点整備計画が車の両輪になっていないのは、省庁再編後の国土交通省の組織の問題もあると考えられるが、日本をどのような国にするのか、そのためにはどのような社会資本整備をするのかという議論が十分に行われていないことが根本的な原因と考えられる。

 

3.あるべき国の姿と社会資本整備

日本の国づくりを考えるときに、前述のとおり投資効率を重視し、効率の良い首都圏に集中投資をして、首都圏に日本を牽引してもらうという国づくりの方向性もあると考えられる。しかし、このやり方では、援助する首都圏と援助される地方部との格差は拡大し、日本全体の国としての一体性が減退するとともに、地方部の自立性が損なわれていくことになる。国から配分される援助に頼る姿からは、地方の自立は望めない。それは、先進国からの援助だけに頼るアフリカなどの後進国に自立性が育たないのと同様である。各地域が自分たちの地域に誇りを持って、その地域の力を十分に発揮することが地域を発展させ、ひいては日本全体の国力の発展につながる。

私は、日本の国土全体が持っている国力を十分に発揮できるようにすることが、あるべき国の姿であると考える。国土の均衡ある発展とは、国民にお金をばらまいて一定水準の生活を保障することではない。各地域に、その地域の力を十分に発揮することができる自由を与え、発展の可能性を保障することこそが大事である。結果としての平等ではなく、発展のための自由を与えることが重要である。そのためには、発展の可能性の基礎となる社会資本整備が必要となる。

今日、国づくりのための社会資本整備を考える上で、特に以下の3点が重要になってきている。

第1に、社会資本整備の意義を国民に伝えることである。もう地方に道路は要らない、ダム建設は要らない、公共事業予算を削って福祉予算に回せなどという意見がマスコミを通じて報道されている。これは、社会資本整備の意義が国民に十分に理解されていないことを語っている。社会資本整備は雇用創出や景気刺激のために行うものではない。ましてゼネコンや政治家のために行うものではない。社会資本整備は、日本の国土全体が持つ力を発揮することができるようにするための基盤づくりであり、日本の将来の国づくりのもとになるものである。今日、社会資本整備を怠ることは、日本の国力を弱めることであり、後世にツケを回すことであることを国民に納得してもらえるように伝えることが重要である。

第2に、社会資本整備のための判断基準である。今日では社会資本整備を進めるための条件として、あるいは社会資本整備を進めないための条件として投資効率が重視されている。平成21年3月には、国土交通省が直轄国道の費用対効果を検証した結果、地方の18箇所事業はB/Cが1以下、つまり費用を上回る効果を期待することができないため、一時凍結すると発表された。しかし、投資効率だけを判断基準にしていては、日本の国力を十分に発揮することができる国づくりを進めることはできない。例えば、阪神大震災で太平洋ベルト地帯の幹線交通軸が寸断され、日本の経済・社会に大きな影響を及ぼしたため、代替幹線交通軸の確保が当時盛んに言われた。しかし、現行のB/Cの計算方法に基づいて、数百年に一度の災害時の迂回路の便益を算出しても、便益額はほとんど増えない。このため、B/Cの指標だけでは迂回路の整備を行うことはできないことになる。そこが知恵の出しどころである。何のために社会資本整備を進めるのかがしっかりとしていれば、投資効率だけに頼らない判断や説明の仕方などが導き出される。そのためには、まずあるべき国の姿をめざす社会資本整備という思想を持つことが重要である。

第3に、長期的視点に立った社会資本整備の重要性である。社会資本整備の実施には、通常、長期間を要する。この間に時代の変化に対応することは大事であるが、根本的な改変はそれまでに投じられてきた資金や人々のエネルギーを無駄にし、社会の混乱や人々の信頼関係を崩壊させるほど大きな影響を与えることになる。国民やマスコミへの配慮も必要ではあるが、本来効率だけでは論じられない社会資本整備について、総合的に判断できる主体は行政以外にはあり得ない。国民やマスコミが批判しようとも、あるべき国づくりのために信念を貫くことも「公」の役割である。国民世論やマスコミの言動で、政策を判断、変更するような姿勢では日本の国づくりを行うことはできない。未来の日本の国づくりのために、長期的視点に立って一貫した姿勢で社会資本整備を進めることが重要である。