• 日韓トンネルは夢ではない

  • 九州と韓国を道路で結ぶために

  • (第1稿)

    平成13年(2001)4月13日

    天本俊正

    1.総論  

    1−1  必要性

    1−2  総合計画・多目的トンネル

    1−3  推進組織・資金計画

    1−4  トンネル構造・防災

    2.各論

    2−0  やはり複合目的の可能性について

    2−1  地域計画

    2−2  推進組織

    2−3  施工

    3.緊急政策提言

    おわりに


  • はじめに

  •  平成2年(1990)5月、盧・韓国大統領の訪日の際の演説がある。「来る21世紀には、東京を出発した日本の青年が海底トンネルを通過して、ソウルの親友とともに大陸を結ぶ友情旅行を楽しむ時代を共に創造しよう」。実は、これをさかのぼること50年、日本の戦前の国鉄には3つの大プロジェクトの夢があった。弾丸列車、青函トンネル、関釜トンネルである。このうち2つは実現した。残るは日韓トンネルである。

     筆者は、国土庁計画調整局計画官というポストにいて第4次全国総合開発計画の策定作業に従事していた(現/国土交通省国土計画局)。その時に話題が出たのが、「日韓トンネル」であった。各省から集まった俊英たちの議論にも供されたが、技術的に難しいのではないか、同計画の計画期間1985−2000年には実現の可能性は、ゼロ、ということで、グループでの検討は見送られた。筆者は、担当計画官としては、心残りのこともあり、自分の検討課題として、この20年近い間、ずっと関心を寄せてきた。

     この間に、世界大陸の反対側では、ユーロトンネルが1994年に開通した。第2トンネルの声さえ出ている。日本は、残念ながら「失われた10年」の平成不況だが、隣国韓国の経済成長は目覚しい。ユーロトンネル以上に、日韓トンネルが、プロジェクトとしての意義深いものである。でも何故、それが、日本国内では、世論の端にもほとんど上がらないのか、不思議と言うほかない。

     その不思議さの由来を極め、プロジェクト立ち上げの声を大きくしていきたいというのが、筆者・天本俊正の、今、21世紀に入った時点での願いである。

     公共事業に厳しい目が向いている中、従来のような「土建屋的発想」では、なにも動けない。経済的採算性も厳しい。国民的知恵をしぼってしぼって、行動するときに初めて動き出すプロジェクトだ。逆に、このプロジェクト始動のエンジンがかかるならば、行き詰まりにきている日本経済の再生の可能な道が開けていく。

     2002年(平成14年)は、「日韓国民交流の年」である。サッカー2002年W杯(平成14年531630日)もある。日韓トンネルへの正しい関心が高まることを祈りたい。


    1.総論  

    1−1  必要性

     公共事業を行う理由はいくつかあるが、「国威発揚のため」も立派な理由の一つである。エジプトのピラミッドにはじまり最近の宇宙開発まで、統治者の威信をかけて行う。日韓トンネルをそのような事業として取らえることでは、21世紀の初頭、国民の承認を得ることは出来ない。

     交通需要として九州―韓国の間に海底トンネル(ここでは沈埋・人工島・橋梁を含む)を造って、料金徴収でペイするだけの需要があるのか。今、単純に答えれば、「ない」の答だ。日本―韓国を往来する年間の交通量を人的なものに限って言えば、300万人(平成11年日本からの韓国訪問観光客220万人)。博多―プサンを結ぶ高速船;ビートル号(JR九州)が、料金1人1万5千円(往復)で、年間30万人運んでいる。東京―大阪の1年間の人の往来が1億人と言われる。そのせめて1―2割程度でも対馬・朝鮮海峡を往来するまでに増え、高速船やフェリーでの往来には限度がある状況が出てくるまでもっていくのは、容易なことではない。

     日韓の交通往来(人的)が、今の300万人/年間から1000万、2000万さらには数千万になり、高速船、フェリー、近距離国際航空便を増発につぐ増発をしても、さばききれなくなる時が、来るのか。増えることは確実としても、ペースはとてもとても・・、の感が強い。貨物はどうか。

     道路トンネルの良いところは、乗り換えしなくて良い(ドアツードア)。荷物もあわせて運べる。自動車貨物運転の利便性は言うまでもない。しかし、フェリー料金とそう違わない料金水準で(せいぜいマイカーで福岡―プサン数万円オーダー)で、大規模、難工事の建設費を賄うことは、今の段階では、不可能に近い。

     道路・鉄道トンネルそのものが持つ需要創出効果も多少はある。大宗は日韓の経済的、文化的結びつきの強まりの中から出てくる需要である。計量モデルを作って、さまざまな政策手段を含めた与件に応じた需要量の推測が必要である。「需要見とおし」がしっかりしたものでなければ、「土建屋発想」として簡単に退けられてしまう。

     「九韓海峡経済圏構想」というフレーズがある。平成6年11月、韓国・光州市で両国の民間代表が集まって、中小企業の育成・振興を通じて、経済交流を深めていくとした。 調査活動の必要性が、指摘されたところである。 

     九韓海峡経済圏が十分に成熟して、交通量が増えることは基本的に必要なことであるが、実は、海底工事を伴う大規模プロジェクトは、生半可な交通量の増加だけでは、間に合わないことも最初から目に見えている。そこで出てくるのは、多目的施設として「日韓トンネル」を構築するという考え方である。日本の戦後の海峡施設は、交通だけに着眼して、建設され、青函トンネル、本四架橋、東京湾横断道路いずれも赤字を免れない。陸地と同じ条件で交通条件を考えれば、難工事分だけ、赤字分にはみ出すのは当然。海の工事を伴うもの、海洋施設が果たす多様な効果は、みな、活用する、その姿勢がいる。観光は一番だが、ほかのライン(電力、水、ほか)を載せる、水産業を振興する等など。合わせ技を考えなければ、海洋工事はペイしない。(海洋開発の工藤昌男氏は、海洋工事は多目的でなければならないことを数十年前から力説しておられた)

     最後に「必要性」として掲げるべきことは、やはり日韓陸続きが、将来に渡って、有形無形のプラスの恩恵を与えるものである。

     

    1−1−2 採算性の目検討

    大雑把だが、全体の構想を見ておこう。

     まず、ポイントは、道路を主体にしつつ多目的施設として「日韓トンネル」を考える。戦前からの構想は、鉄道トンネルであったが、自動車交通が、地域交通の主流になった現在、道路トンネルにしなければ経済採算の話にさえのらない。鉄道では、荷客ともフェリーにさえ競争はおぼつかない。ユーロトンネルは、ペーギーバック方式だが、第2トンネルは道路が構想されている。道路の場合、換気の問題が乗り越えなければならない。

     海底トンネルの工事の困難さ、コスト高を考えると、鉄道から道路主体に切り替えてもなお採算はおぼつかない。広範な複合利用を目的としなければ採算性は、出てこない。観光開発、地域開発は当然の項目としても、海洋構造物そのものに水産、食糧備蓄、パイプライン、発電施設、廃棄物処理施設などの機能を付け加えて、費用の負担分散を図る必要がある。 

     トンネルの構造は、壱岐・対馬の開発も考え、かつ、海底地質の複雑さを考えると沈埋函を海底に繋ぎ合わせる沈埋トンネルが、合理的である。東京湾多摩川河口の高速道路などで使われているものである。 

     「採算計画案」を提示しておこう。 

    1)工事費総額  10兆円(5−15兆円までくらいの誤差範囲があるといわざるを得ない.

    2)部門別の工事費負担

    A;道路

     通行料金を3万円/1台とみて、1日交通量を2万台と見込むと年間2500億円の収入となる。やや楽観的だが、飛びぬけてひどいこともないだろう。 低金利5%以下でほぼ永久的に借り替えていくことができるとして・・5兆円の工事費負担が可能であろう。 

    ――――――――――――――――――――――――――――――――5兆円

    B;鉄道

     リニア新幹線を入れる。博多―プサン200キロ余り、1時間、1万円の乗車料金、1日2万人で年間収入700億円――――――――――――――――――――――――――2兆円弱

    C;水産・食糧備蓄など

     海洋牧場が、沈埋トンネルの構造物の附属、もしくは周辺施設として構想される。海底の低温一定の環境を利用しての食糧備蓄施設も考えられる。トンネルの維持修繕、環境保全からいってもこのような施設との共存がいる。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――1兆円弱

    D;通信、電力、オイル、ガスなどの同軸、光ファイバーなどのライン、パイプラインなどの海峡横断施設の敷設―――――――――――――――――――――――――――――1兆円

    E;海底発電所の建設;大変な議論のある誘致施設であろうが、海底の施設として原子力発電所の建設を提案したい。安全性からいっても運転の安定性から行っても立地適地である。日韓両国で、いくつの施設が造れるかわからないが…。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――1兆円

    F;地域開発・観光開発;関係する日本では、長崎県(壱岐対馬)、佐賀県(唐津伊万里)、福岡県(福岡市)、韓国慶尚南道、プサン市にとって地域開発・観光開発の効果は、計り知れない。

    壱岐と対馬の間、対馬とプサンの間に換気のための100メートル水深の人工島を1−2島づつ作る。ここにホテルや釣りの基地を作ることによる集客能力が期待できる。東京湾横断道路の人工島(ホタル)に何故、宿泊施設などを作らなかったか、不可思議である。 

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――1兆円

    G;最後に日韓両国にとっての防衛問題上の負担がある。海峡を自然の国境防衛施設として観念するむきからは、マイナスの評価しか出ないかもしれない。事実、筆者が福岡の友人に日韓トンネルのはなしをすれば、「防衛上、海峡で隔てていたが良い」という意見もある。 

     しかし、もっともっと大局的、歴史的に見れば、日韓両国は、兄弟国家である。両国が知恵をだしあってアジアの平和と環境を維持していく交流に意味は大きい。陸続きになることの意義を考えれば、日韓両国は、1兆円程度の国費負担をすることは、当然のことである。日韓両国は共通の敵に対して日本海・東シナ海の海域への防衛線を持つことにもなる。

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――1兆円

     以上AからGまでで10兆円の資金が集まり、10兆円の工事費を負担できる。ごくごく粗っぽい試算である。このほかにも、廃棄物の処理、先端科学の実験施設などに海底利用が考えられる。

     

    3)維持管理

     海峡、東シナ海などの海洋開発の基地として多目的な活用を図っていけば、いろいろな工事が、永続的につながっていき、初期の建設に続く維持管理が円滑に行われることが期待される。とくに換気のために100メートル水深の海峡の真中で人工島を3ないし4ヶ所作ることは、人工島の活用のほか周辺海域の開発も呼び起こすものである。 

     

    1−2  総合計画・多目的トンネル

    1)対馬海峡・朝鮮海峡の自然的条件と日韓トンネルの構想

     朝鮮海峡、対馬海峡、壱岐水道は、ウルム氷期の最盛期(約2万年前)までは、海水面の上下運動により、あるときは陸続きになり、また海峡となったりしていたという。(大林組;林章氏ほかチーム資料による)。現在の水深は、おおむね100メートル前後であるが、区間別に見ると唐津・壱岐の間は海上部22キロで、深いところで50メートル。呼子町の沖合いに加部加唐島と渡り継ぐことが出きる(橋梁で可能)。壱岐から対馬まで約50キロ。水深は、大部分が100メートル前後、最大水深130メートルである。トンネルとなるが、ここでは沈埋トンネルを構想する。対馬からプサンまでは、コースの取り方によるが、約50キロ。水深は約50−100メートル。ただし対馬トラフという最大水深220メートル幅10キロのくぼ地が対馬北西沖合い10キロにある。この区間は太古の断層活動を反映して、厚く軟弱な堆積層がある。大林組;林章氏ほかのチームもここでは海底トンネルの掘削を不適当とし、海中トンネルを提唱している(平成111月、JAPIC提案された)。沈埋トンネルと人工島がここでは望ましい。海底掘削トンネルであると、100メートル近い海底のさらに地中から道路リニアなどが島に上陸するには、かなりの無理な傾斜が要求される。沈埋トンネルであればその点は楽である。

     対馬の島内のルートはいろいろな考え方があろうが、かなり険しい山中(500メートル超の山並みがある)を数十キロとおることが考えられる.

     沈埋トンネルは、海底上での作業が入るので海底の砂が舞い上がるなど環境保全が最大の課題となる。事実、東京横断道路の構想は、当初、沈埋トンネルで考えられたが、水産・環境への影響からシールド掘削工法に変わった。朝鮮海峡、対馬海峡は海流の流れがあり、水深もあるので工法に万全を期せば環境・水産に決定的なダメージはないと推測する。もし、あれば一層の科学技術の粋を集めてこれを克服する。蛇足ながら、英仏海峡で1855年、ナポレオン3世は、鉄の箱を溶接して沈める方式を提案したとか。

     

    2)地域経済

     簡単に北部九州と韓国・慶尚南道・プサン市の状況を概観しておこう。福岡県・佐賀県・長崎県の3県の面積・人口は1万1500平方キロメートル、736万人、慶尚南道は、1万2000平方キロメートル、332万人(プサン市を除く;198)、プサン市の人口381万人(1995)。なお、慶尚北道になるがテグ市(人口245万人)もプサン市に近い。慶尚北道は、2万平方キロメートル、496万人(1980)。南と北と合わせての慶尚道で1144万人(1980)で韓国人口の30%となる。嶺南地方とも言われる。

     通過地点となる対馬は、面積696平方キロメートル、人口4万9000人、壱岐は、面積134平方キロメートル、人口4万1000人となっている。

     日本の本州になぞらえれば、東京―浜松、大阪―名古屋という200キロを隔てた都市圏が、それぞれ1000万人近い人口・経済圏をもって対馬・壱岐の島を挟んで対峙しているということである。海峡と国境がなければ、世界有数の経済交流圏である。

     日韓トンネルの及ぼす地域効果であるが、交通手段に関しては自ずからの範囲がある。自動車は、得意分野は、中近距離であって100キロから500キロくらいが乗用車、トラックの守備範囲。飛行機はむしろ1000キロを越えなければ、経済効果は少ない。列車は、通勤電車はあるが、500キロ超えても意味は大きい。日韓トンネルを主として道路トンネルとして捉えるならば、北部九州、韓国南部と効果の出る範囲を絞って考えていくほうが現実的である。東京から超長距離の寝台列車に乗ってシベリア鉄道のようにパリ、ロンドンまで行くというのは夢は呼ぶかもしれないが現実には飛行機に乗って一飛びになる。したがって日韓トンネルを大陸横断鉄道の手段のように吹聴するのは、プロジェクトの立ち上げで世論の同意を得るのにかえって妨げになる。そういう効果は、小さいのだから・・。

     

    3)多目的トンネル

     道路トンネルだけに出来ないわけは、有料道路だけでは、この海洋構造物の製作設置・維持管理の経費を償うことは、困難だからだ。困難ならばあきらめればいいではないか。いや、無理してでも朝鮮海峡・対馬海峡を陸続きにしようと言うには、しかるべき見とおしがいる。

     ユーロトンネルは、まだまだ赤字基調であるが、開通まもなく10年を迎えるところで、ヨーロッパに経済発展の地域的主軸が見えてきた。ロンドンーブリュッセルーパリーフランクフルトーミラノーローマの南北軸である。EU政治的統合のおかげでもあろうが、ユーロトンネルの間接的な効果である。

     北アジアで、東シナ海、黄海沿海沿いに、ソウループサンー福岡―長崎―上海―チンタオー北京・天津の新しい成長リンクが、日韓トンネルを一つの契機にして見えてくる。少なくとも当面、日本・九州と韓国の経済、文化面での緊密化は、この地域の成長の核である。

     多目的な利用方法をかき集めてでも、この構造物を作る必要がある。

     詳細は、各論に譲るとして、

    A;水産業=この海域での水産振興は、この事業の不可欠の要素である。養殖漁業で、日本と韓国の国民のたんぱく質食糧を確保する、そういう政策の柱の一つになれるだけの大規模の海洋牧場ほかの事業を行う。水深100メートル−200メートルの大陸棚は、朝鮮・対馬海峡の西側に延々と広がっている。21世紀型の大規模養殖漁業の先端基地として、沈埋トンネルの構造物の上部・周辺部分に養殖漁業施設をあわせて建設していく。

     食糧備蓄については、海中の定温性などの特徴を生かし、穀物そのほか食糧危機に備えた倉庫施設をトンネル構造物(沈埋函)に付設または周辺に構築する。

    B;発電施設。エネルギー需要は、自然エネルギーを活用するにしても、経済成長・文化発展に伴って増大する。パイプラインなどエネルギーの通路として沈埋トンネルを活用すると共にトンネルに付随もしくは隣接してエネルギー製造施設を作ることによって、沈埋トンネルの経費分担を図る。厳しい批判のあることも覚悟して言えば、海底原子力発電所は、最適施設である。ほかでも提案がある。水圧により安全度は一層ます。万々一の事故の拡大も防ぐことが容易である。

    C;廃棄物の処理施設;海に捨てるのではない。きちんとした管理をして保存し、次の活用を待つことができる。原子力の放射線廃棄物はいま、大きな函型の形でコンクリート詰めにして存置している。沈埋トンネルは海底の基礎部分のコンクリート、浮力を押さえるアンカーに巨大なコンクリート構造物が必要である。危険性に一定の許容があるならば、沈埋トンネルの構造物の一部に取り入れられないか、と望む。一石二鳥どころでない。処理費用を考えると、数兆円の工事費負担能力があるものと期待する。

     放射能廃棄物に限らず、重金属など封じ込め構造物をここで活用する、しかも厳重な監視の基に置く事ができる。

    D;リニアモーターの高速鉄道;福岡―プサンを結ぶリニアモーターカーを運行する。京釜、山陽の両新幹線とは、それぞれ乗り換えになろうが、リニアには、構造上の利点がある。

    急な勾配を苦手としない。沈埋トンネルになり、海底の地形に合わせて工程をとることが出きる。そもそも道路は路線のカーブ、勾配では柔軟性があるわけで、従来の鉄道のようにカーブが少なく、高低さも少ないがいいとは違う。リニア鉄道は、計画上、一体として道路に沿うが原則としても、一部は、別路線と敷いて離れることもあろう。

    E;観光開発、地域開発、人工島の活用;いままでの開発でも論じられてきているところであるので、詳しい議論は当面いらないが、往々にして「セクト主義」「中央省庁の縄張り」などで複合目的の追求は必ずしもスムーズでないかもしれない。

     人工島については、通行する自動車の種類があるいは自動車が電気自動車になるとか、水素利用とか、いろいろ新しい動きが出ているが、ここ20年と言う期間を取れば換気のための人工島が必要ということになろう。それに人間の運転心理として50キロを超える直線・トンネル運転は、危険要素が増える(密室恐怖症)。おおむね18キロ程度毎に人工島に出あうということは、運転心理的にも望ましいことである。

    4)総合計画の策定

     以上のような沈埋トンネルの計画と会わせて各種の事業計画、関係・周辺の地域計画を組み合わせて総合計画を作る必要がある。

     

    1−3  推進主体・資金計画

     事業期間は平成17年(2005)から平成32年(2020)までの15年間、総事業費はおおむね10兆円程度と見込まれる国際大事業である。日韓両国の国策会社が取り仕切ることになろうが、資金は、これまで述べてきたように、民間資金を主として使い、利用者からの料金そのほかの形での収入で支出をまかなう形になる。ユーロトンネルの場合は、両国の事業認可条約批准後7年かかって開通した(設計から完成まで8年)。1兆1500億円をユーロトンネル社が、各国銀行からの融資でまかなった(39の日本の銀行が参加して23%の割合)。すべて民間資金であった。

     日韓トンネルの場合、両国の中央政府が中心であることは論ずるまでもないが、鉄道でなくて自動車が中心、関連地域開発重視であれば、慶尚南道・プサン市、北部九州3県2政令あたりの両国の地方政府の積極的な参加が考えられる。

     

    1―4  トンネル構造・防災

     ここでのトンネル構造の提案は、沈埋トンネルと海上橋梁の連結である。

     沈埋トンネンは、国の内外で増えている。多摩川トンネル、川崎航路トンネル(首都高速道路)大阪南港トンネル、新潟西港臨港線、シドニー湾、香港島トンネルなどがある。シドニーでは日本の熊谷組が景観・環境(魚介類の生態の保護も)に配慮した工法として土木学会(日本)の技術賞を獲得している。

     最大の多摩川トンネルの場合、幅40メートル、高さ10メートル、長さ130メートルのコンクリート函12函からなっている。日韓トンネルでは、海峡でトンネル部のおおよそ100キロに、1000函のケーソンを沈め、繋ぐことになる。大量製作によるコストダウンを期待したい。ケーソンは造船所のドックで工場生産できる。佐賀、長崎、韓国には、地元造船所が十分、対応体制を持っている。

     問題は、基礎ほり、据付が、これほど深い100メートルというところでできるか。ロボット技術などを駆使するとしても、水圧そのほか作業環境は、困難を極める。多摩川の場合、25メートルの海底に1メートル厚さの石をひきモルタルで固めた基礎工事の上にケーソンを順番に沈め、引き寄せてジャッキでくっつけていった。工費が安く、工期も短いというが、多摩川に比べ日韓の場合は100メートル水深、波風もきつい沖合いとなると問題は多い。

     トンネル供用開始後の「安全」は最大の問題である。トンネル火災は、対応に間違いが許されない。最近では平成11年(1999)3月、フランスのモンブランのトンネルで火災が生じ35人が被害にあった。世界最長の道路専用である東京横断道路では、車道の下に小型消防車が通る管理用道路を作り、泡消火剤も噴射する大型スプリンクラーを設置している。


                                         

    2.各論

    各論は、やや脈絡無しでも、書き加えていく。

    2−0  やはり複合目的の可能性について

     道路トンネルだけで採算を確保するのは、難しい。みんながそう思っている。だから本気で誰もプランを練らない。ユーロトンネルも日本の銀行は痛い目にあって懲りている。こういう厳しさを打ち破るには、沈埋トンネルで他の利用との共存が可能で収支が償え、国益にも合っていることを証明しなければならない。これがなければ日韓両国も世界のリーダーになれないことがわからなければならない。

     工藤昌男氏の「海からの発想」(東海大出版)は、示唆に富んでいる。海底の水圧の積極的利用を考えれば、水深100メートルで10気圧である。たとえて言えば10気圧の気体が、爆発の危険もなくホースの中を通っていく世界で、したがって材料も工法も、安全基準も違ってくる。海底原子力発電所は最適立地であるが、余熱を利用すれば湧昇流により栄養塩類が吹き上げられ、養殖漁場とも共存できる。人工流れ藻ステーションも沈埋トンネルの上部では可能だ。

     沈埋トンネルは、ケーソン(函)をモヂュールとして組み合わせることによって多様な利用の仕方があるはずだ。食糧やレアメタル、廃棄物の保管空間を海底に作り、管理用の海底道路を繋ぐ。狭い日本、韓国の陸上ではなかなかできないことを、ここで行うことが出きる。幸い朝鮮、対馬海峡の海底の起伏は大きくない。

     これらの知恵を積み重ねて初めて円滑に日韓トンネルが、完成でき、維持できる。

     なお、沈埋トンネルの多目的利用という面では、北海道の宗谷海峡、国後島との間の根室海峡は、水深も浅いし、距離も近い。水産資源も豊富で、応用が望まれるところである。

     

    2−1  地域計画

     対馬、壱岐は、プサン、福岡という大きな都市圏に挟まれている。少なくとも500万人の都市圏、経済的に活動的な経済圏をわずか100キロの南北両方に持ちながら過疎、経済停滞に悩んでいる。福岡ープサンの交通は、両島を置き去りの形で進んでいる。西のユーロトンネルに負けない東の日韓トンネルが、沈埋トンネルによって両島に上陸し(従来の鉄道山岳トンネルだと素通りも)、日韓を結ぶ多様な産業・文化立地がこの両島にも期待できよう。

     九韓経済圏への日韓トンネルの波及効果は、地域経済計量モデルで周到に試算されなければならない。

     

    2−2  推進組織

     日韓両国の中央政府による国策会社設立が待たれる。しかし、北部九州、韓国南部の住民・企業がより直接的な利益を受けることもあり、地もとの熱意が、研究会、協議会、期成同盟のような形で盛り上がっていく必要がある。なお、両国の中央政府が、共同して調査を行うよう働きかけが、当面の目的である。

     ひとこと。韓国を発祥の地にするキリスト教系の新興宗教組織が、一時、熱心に日韓トンネルについて研究、働き掛けを行ってきた。それ自身は、悪くないが、この動きとは、一線を画したものとして立ち上げていくことが、早期実現にとって必要なこととなっている。実際、地域開発(国境を超えた広域の地域開発)のための日韓トンネルという考え方は、いままでの動きとは違ったものとして両国民、市民の間で認識されるものと考える。

     

    2−3  施工

     海中工事についての建設技術の進歩は目覚しい。ロボットを使った技術が、いままでの困難さを大幅に減少させている。日本の技術では少ないが、海底油田の発掘に伴う深海技術も応用できるであろう。

     東西冷戦が終わって、不要となった原子力潜水艦を平和利用として、工事の管理に使ったらという考えもある。

     


    3.緊急政策提言

    1.両国による大掛かりの事業可能性調査を早急に行うこと。3ヵ年100億円程度の予算措置を両国で措置を決定し、平成14年(2002)6月のワールドカップ開催時に、両国首脳から前向きの宣言を国際的に行うこと。

    2.国策の日韓トンネル公社(仮称)を設立すること。

     


    おわりに

     取り急ぎ、日韓トンネルの意味を考えるために手持ちの資料から意見を取りまとめたものである。異論も多いであろうが、多くの、将来に向けてのプロジェクトがしぼんでしまった現在、日韓トンネルが両国の国土、そしてアジアの国土デザインの一つとして取り上げられることを期待する。